捻挫の処置

捻挫でよかった?

「骨折はありませんね。捻挫ですよ」「よかった。2,3日で治りますね」

これは,日常、診察室でよく聞かれる会話である。しかし、「1ヶ月も経つのに、まだ痛みがとれません。前の医者は単なる捻挫だと言ったのですが」という苦情もよく耳にする。

このように、捻挫といっても、二度と顔も見せない患者から、医者を転々としたあげく、民間療法に走る患者までいる。医者にとって捻挫は、関節の軟部支持組織の損傷であり、骨折より治りにくいこともある。しかし、患者は、捻挫なら骨折より簡単で治りも早いはずと考える。

したがって、レントゲンで骨折がないから、捻挫というだけでなく、必要に応じて靭帯損傷など詳しく診断し、治療や予後について説明することが、捻挫の処置の第一歩である。

捻挫の診断

受傷機転から損傷部位を推定し,疼痛、腫脹、圧痛、運動痛、関節の不安定性、皮下出血、関節血腫などから、靭帯や他の支持組織の損傷を診断する。特に不安定性は、捻挫の程度の診断に重要である。捻挫を程度により軽度、中等度、重度にわける。

一般的処置

捻挫の初期に重要なのは、損傷を拡大せず、腫脹を防ぎ、瘢痕形成を最小にすることである。これにはICE処置(Ice−氷冷、Compression−圧迫、Elevation−高挙)、またはRICE処置(Rest−安静、Ice、Commpression、Elevation)が有用である。軟部組織の修復には3週間かかるので、その間は何らかの固定を行う。断裂した靭帯の修復には6〜9週間のギプス固定が必要である。

足の捻挫

尖足内反位での損傷が多いので、前距腓靭帯、踵腓靭帯、二分靭帯、短腓骨筋腱の第5中足骨付着部など外果周辺の損傷が多い。片足で立てれば,ICE処置を2日間行い、3週間弾性包帯、テーピングなどで固定する。(末梢部の循環障害を予防するために、アンカー部を除いて、全周には巻かない。)立てなければ,ストレスレントゲンで検査をし、1週間はギプス副子で固定し、ICE処置を行う。腫脹が引いたのち、重度例は5週間、中等度例は2週間ヒール付き膝下ギプスを巻く。重度例で、日常生活に支障がないだけでは不満足なスポーツ選手などには、手術の適応もある。

膝の捻挫

強い力で外反され、内側側副靭帯が損傷することが多い。不安定性のない軽度例では、ICE処置を1週間、弾性包帯などの固定を2週間行う。不安定性がある場合には,単独の不全断裂から半月版損傷と前十字靭帯断裂を合併した例までいろいろなので、ストレスレントゲン、関節造影、関節鏡などの検査が必要である。不全断裂と分かる症例には、3〜6週間シリンダーキャストで固定する。完全断裂は早期手術が必要なので、ギプス副子で固定して専門医に紹介する。

指の捻挫

PIP関節では側副靭帯、掌側腱板が、母指MP関節では尺側側副靭帯が損傷しやすい。軽度例はアルミ副子で軽度屈曲位に2,3週間固定する。不安定例では、脱臼の自然整復が多く、靭帯の断端が関節内に陥入した症例は手術を要するので,専門医に紹介する。指では腫脹を防ぐことが特に重要である。初期から患肢全体を1回10分、1日数回挙上し、固定除去後も過度な他動運動はさける。

まとめ

「足首を捻挫すると、骨折より始末が悪い。」(Watoson-Jones,1940)これは、患者がよく口にし、医者にはいやな言葉である。