女性のための健康講座骨粗鬆症

適切な食事と運動で予防を

健康な生活を目指す女性のための健康講座「医療ルネサンス北陸セミナー」がこのほど、高岡市御旅屋町の高岡大和で開かれた。11回目となる今回は「骨粗鬆症ー整形外科医の立場から」をテーマに、講師の慶応大学医学部整形外科講師の井口傑氏が、体内でのカルシウムの吸収・排出の仕組み、更年期障害と骨粗鬆症との関係、骨粗鬆症の予防法について講演。その後、丸木一成・読売新聞生活情報部次長との対談では、骨粗鬆症の健診の目安,骨粗鬆症に対する気構えにまで話題を広げた。

講演要旨

怖い骨折後の合併症

人間は直立二足歩行によって、文明を営むようになりましたが,犠牲も払いました。骨盤が45度に傾いているため、背骨が邪魔しての難産、背骨がS字に曲がっているための椎間板ヘルニア。また、ひざに水がたまってしまうということもあります。

さて、今日のテーマは骨の病気。骨は体を支えるという大きな役割がありますが、ほかに二つあります。骨髄の中で細胞分裂して,赤血球と白血球を作るという役割と,大きなカルシウムの貯蔵庫という役割です。

日本人は1日600rのカルシウムが必要だといわれています。体の骨全体で1kgのカルシウムがあり十分なストックがあります。また、カルシウムは血液の中に10mg/dl溶けており神経の活動に重要な働きをしています。足りなくなると,神経が過敏に反応したり、反応しなくなったりします。

ただ、1日600rのカルシウムを食べても、体に入っていくのは三分の一の200mgだけで、しかもその半分は排泄されてしまいます。腎臓も余っている場合は尿にだし、足りない場合は制限しています。このように、カルシウムについては食べる量が不足しても一ヶ月や二ヶ月では、何の変化も起きません。

この季節に多いのは、大たい骨の頚部骨折です。これはお年寄りに多く、非常に怖い。東京都老人総合研究所の数年前の統計によると、大たい骨の頚部骨折で入院した65歳以上の人が,5年後に生存していた確率は50%。これは胃がんの生存率よりも低い。

ではなぜ怖いか。骨折で死ぬのではなく,骨折で痛くて起きられない,座れない、立てない、歩けない,寝返りをうてないということになり、その結果、肺炎、膀胱炎という合併症を伴い、死亡率が高くなるのです。

それと背骨の圧迫骨折。上から圧迫すると、S字の曲がりっぱなの、胸椎12番目と腰椎の1番目がつぶれやすい。つぶれると、どんなに軽くても3週間ぐらい寝込むほどの痛さです。

ただ、今回のテーマ骨粗鬆症は弱い力での骨折であり、まひ症状は伴わないものです。女性は30代から,骨の量が年に1%、10年に10%減少します。さらに更年期で女性ホルモンの一種が出なくなると,数年で6,7%なくなってしまう。病気で卵巣を取った場合は人工的に急激な更年期がきてしまう。これが更年期の骨粗鬆症です。

骨粗鬆症は骨多孔症とも言いますが,約20年前までは大したけがでないのに骨折した場合を限って言っていた。最近は骨折する危険性がある人を含めるようになり、現在、日本での骨粗鬆症患者は,一千万人とも言われています。

そのため、予防医学的に取り組まれるようになりました。昔はレントゲンで診断していましたが,今は骨塩定量装置で早期発見・早期治療に努めています。しかし、装置にも誤差があり,数字で一喜一憂しないでほしい。それが骨粗鬆症と付き合っていく一番いい方法です。

また、それぞれの年代で、予防をしていただきたい。30代で,適度な運動をし、バランスのとれた食事をとっていれば、五十代で病気の心配がない状態が期待できます。逆に運動のし過ぎはよくありません。アメリカでは,20,30代の間で過度な運動による骨萎縮が問題になりました。

更年期が急激と診断されたり、何らかの理由で卵巣を取った場合は,ホルモンの補充療法もあります。

それ以外の40,五十代の方は,牛乳などを含め,1日20〜30種類の食物をとるなど適切な食事をとる努力が必要です。また、弱い運動を息長くすることも大切です。例えば,全身運動の水泳が1番いいのですが、1万歩歩くとかラジオ体操。60,70代では、自分で自分なりに体を動かすことが1番の治療になります。

対談

丸木:骨粗鬆症になりやすいタイプはありますか。

井口:白人、小柄な方,遺伝もあります。それに運動不足、極端なダイエット。また、過度なアルコール,たばこも関係するといわれています。

丸木:地域的な差はありますか。

井口:くる病が発症する地域など、日光が不足して,ビタミンDが活性化されないと骨粗鬆症になりやすくなります。

丸木:牛乳が骨粗鬆症にいいというお話ですが,その理由と常識的にどれだけ飲めばいいのでしょうか。

井口:牛乳はカルシウムの吸収,コスト面からお勧めできるということです。飲みたい量だけ飲めばいい。牛乳で下痢をしてしまう人はチーズ、ヨーグルト,アイスクリームでもいい。

丸木:カルシウムの取り過ぎで、腎臓結石を心配する方もありますが、どうなのでしょうか。

井口:あり得ますが、心配はありません。それよりは水道水が硬水なのかどうか、を心配したほうがよろしい。

丸木:骨粗鬆症の検診で目安はあるのでしょうか。

井口:装置で3%程度の誤差があるので正常値と10%の差があっても気にしなくても結構です。標準偏差で言うと、「マイナス3」を超えた人は間違いなく医者へ行った方がいい。「2」から「3」の間の人は健康診断と思って行ってください。それ以外の人はご自身に健康感があれば、放っておいて結構、というのが医者の本音です。

丸木:ホルモンの補充療法はガンの恐れがあるという話もありますが、どうなのでしょうか。

井口:補充療法にはいい面と悪い面があります。更年期障害で週に一度医者通いしているなら、受けた方がいい。月に一度程度なら受けていただきたくありません。

丸木:骨粗鬆症の危険性があると言われたときの,気の持ちようはどうしたらいいのでしょうか。

井口:三十代の方はまず、自分の娘の心配をしていただきたい。十代の食事,運動が三十代の骨量を決めるからです。十代のダイエットには反対です。二十代の方は学生時代にしていた運動を継続し、朝食をきちんととってもらいたい。三十代では、もし検診で引っ掛かったならスポーツを楽しんで牛乳を飲む。牛乳が飲めなければカルシウム剤を飲めばいい。検診で危ないと言われて、気持ちが内向きになってしまうと、更年期になって自分の人生に疑問を持ってしまう。四十代になったなら、打ち込めるものをつくり、自分の人生を歩んでいただきたい。そうすれば、更年期になっても、それを乗り越えようと気持ちが出てくる。最後に強調したいことは、人生は健康のためにあるのではなく、健康が人生のためにあるということです。

質疑

Q:右手の親指が痛みますが骨粗鬆症でしょうか。骨粗鬆症の前触れは?

井口:似かよっていますが違います。変形性脊椎症などの腰痛で、痛みが足に響かない、過度に運動するとかえって痛くなる、といった場合が骨粗鬆症のあらわれといえます。

Q:出産の有無、生理の閉止期は骨粗鬆症と関係しますか。

井口:生理が早く始まった方と多産の方は,お気を付けになったほうがいい。

Q:腰が曲がっているが、カルシウムを飲んだほうがいいのでしょうか。

井口:間に合いませんが、カルシウム剤と共に活性型のビタミンD、カルシトニンを3ヶ月ぐらい飲めば痛みが抑えられ骨が折れにくくなります。

Q:ほとんど運動する機会がありませんが、骨粗鬆症になる危険性がありますか。

井口:歩かれたらいい。薬を飲むよりは、安全で数倍効きます。

Q:カルシウムを取るのに、食物とカルシウム剤では違いがありますか。

井口:原則的には食物の方がいい。牛乳のように、タンパク質とカルシウムが結びついたものだと腸に吸収されやすいが、カルシウムだけでは吸収されにくい。牛乳で下痢される方はヨーグルト、チーズもいい。

Q:納豆が骨粗鬆症にいいと言いますが、どうでしょうか。

井口:納豆はカルシウムの含有量が多く,牛乳と同様にタンパク質もあり,吸収されやすいですね。