足底腱膜炎の治療

(日本醫事新報No4099 2002.11.16号94〜95ページ 質疑応答Q&Aから)

Q 48歳、男性。身長173cm、体重69kg。潰瘍性大腸炎で経過観察中。6年前に他医にて右足足底筋膜炎と診断。当時は青竹踏み等の保存療法を指示された由。扁平足はなし。その後、右踵部足底の軽度腫張がひかず、最近になり右膝痛(特に屈伸時)、右股関節・右腰部痛が出現するようになった。

  1. 治療法について。NSAIDs投与や消炎外用薬の貼付のほか、理学療法としてはどのようなものが適当か。また、診察時に注意すべき所見を。

  2. 予後。手術が必要になるのはどのような場合か。

(大阪府 W)

A  足底腱膜炎は足底筋膜炎、踵骨棘ともいわれ、踵骨足底部に疼痛がある、中年の男性に多い、変性疾患である。朝、起床時の第一歩が痛く、ごく短時間で消失してしまうことが特徴であるが、中には歩行により疼痛が増悪する症例もある。踵骨足底部前内側の足底腱膜の付着部に圧痛があり、軽度の腫張を認めることもある。

 踵骨側面X線写真で、踵骨足底部に骨棘の形成があることが多く、疼痛の原因として説明されることが多い。しかし、疼痛の原因は足底屈筋群の付着部の炎症であり、骨棘は変性に対する修復結果である。事実、骨棘があっても無症状なことが多く、疼痛が消失しても骨棘の大きさに変化はない。筋膜から付着部への腱膜様部分が経年的な変性により微少な断裂を起こし疼痛の原因となる。就寝中に再癒合した微小断裂部位が、起床時の歩行開始により引っ張られ、再断裂し痛みを生じる。これが、毎朝、疼痛をくり返す理由である。そして、断裂と癒合をくり返しながら、最後には断裂し癒合できなくなり疼痛が自然寛解する。

 踵骨枝を中心とした足根管症候群、足底腱膜線維腫症や踵骨脂肪体萎縮が主な鑑別疾患である。脛骨神経の内側踵骨枝は、足根管内や母趾内転筋筋膜貫通部でエントラップメントを生じ、足底腱膜炎や踵骨棘と同様、踵骨足底前内方に疼痛が生じるが、起床時数分間だけの疼痛と言うより、歩行により疼痛は増悪する。足根管や踵骨枝に沿っての圧痛が診断の決め手となる。足底腱膜線維腫症は踵骨より前方で腫瘤を触れれば鑑別は容易である。踵骨脂肪体萎縮は踵部特有の張りのある脂肪体が萎縮して軟らかく移動性が大きくなり、踵骨を容易に触れるようになる。これも、疼痛は歩行により増悪する。

 疼痛も起床時に限られ、数ヶ月で自然治癒する症例が大半を占めるので、積極的な治療は必要ない。足趾、足関節のストレッチ運動を行い、歩行により疼痛が強くなる症例にはヒールカップを使用する。足底板やアーチサポートを処方することもあるが、市販の安価なヒールカップと効果に大差はない。竹踏みやイボイボの健康サンダルは発症を誘発することがある。

 鎮痛消炎剤の貼り薬や軟膏、クリームの使用は、原理的に正しいはずであるが、朝の第一歩の激痛を止めるほどではない。NSAIDs投与も同様で、仮に朝の第一歩の激痛を止めるほどの量を投与するとすれば、副作用の法が目立ってしまう。数ヶ月の薬剤投与で改善したと言われる症例は自然寛解の可能性が強い。

 歩行により疼痛が増悪する症例にはNSAIDsを投与するが、効果は限定的であり、投与中断により効果を確認しながら投与する。ステロイドと局麻剤の局所注入が著効を示すこともあるので、疼痛の激しい症例、歩行により疼痛が増悪する症例には、2、3週に1度、数回試みても良いが、効果が数日しか継続しない症例に継続すべきではない。温熱療法やジアテルミー、マッサージなども行われるが、効果は短期間、限定的で、自己が行うストレッチ体操に優る物ではない。

 前述したように、大半の症例は数ヶ月、長くても3年以内には自然寛解する。したがって、手術の適用は非常に限られる。すなわち、疼痛が起床後の数分に限られず、歩行に比例して増悪し、日常生活に支障を来す症例の内、保存療法に抵抗して1年から3年以上経過した症例である。従来は、踵骨棘が疼痛の原因とされこの切除が行われたが、現在は足底屈筋群の付着部の筋膜・腱膜切離を施行し、内視鏡下でも行える。

 個々の症例で、薬剤や注射、装具や理学療法に対する反応は異なるが、数万人規模の調査では、治癒までの期間がストレッチだけでも大差がない。したがって、効果的な治療法はないが、鑑別診断をきちっと行えば、大半は経過観察のみで積極的な治療も必要ない。

(慶大整形外科講師 井口 傑)