誤解に満ちあふれた「扁平足」

予防と治療のための正しい知識

「扁平足」ということばは、たいへんポピュラーなものだが、慶應義塾大学病院整形外科の井口傑講師によると、一般の人に少なからぬ誤解があるという。

「たとえばスポーツをやっている方で、土踏まずがないから扁平足ではないか、と悩む人が多く見受けられます。しかし彼らは足の筋肉が非常に発達しているだけで、心配する必要はありません。肥満気味のお子さんでフットプリント(あしがた)をとっても土踏まずが見られないことがありますが、これも必ずしも扁平足ではないのです。」

扁平足とは簡単に説明すると、土踏まずにあたる部分のタテヨコのアーチがなくなることをさす。このアーチの役目は医学的に充分解明されているわけではないが、振動や体重のストレスを上部に伝えないための、クッションかサスペンションの働きをするものと考えられている。このアーチの頂上の部分の骨は舟状骨(しゅうじょうこつ)と呼ばれ、この部分と地面との距離が減じたものを医学的に扁平足という。外見上、土踏まずがなくても、体重をかけた状態でレントゲンを撮った場合、地面と舟状骨との間に距離があればそれは扁平足ではない。

ではなぜアーチの働きに狂いが生ずるのか。

その原因は、先天的な骨の異常の他に、

  1. 足の筋肉が弱くなる。

  2. 過度の肥満。

  3. 靭帯がゆるむ。

といったことが、複合的にからむためとされている。

こうした素因を抱える人が、思春期に急激に体が成長したときやスポーツを始めたとき,進学、就職による生活環境の変化などによって発症するケースが多い。患者は足裏の中央部が疲れやすくなり、痛みを訴えることもある。その結果歩き方まで悪くなってしまう。

俗説に惑わされるな

では、扁平足を予防するにはどうしたらよいのか。

なかには土踏まずにあたる部分にアーチサポートのついた靴を履く人もいる。また足内筋を鍛えるために、足の指で床に落ちているタオルをつまむ運動を繰り返す人もいる。

「それぞれ悪いことではありませんが、どちらも万能といえるものではありません。むしろ幼い頃から裸足(はだし)で遊ばせるのが、足内筋を鍛えるのに役立ちますからお勧めします。」と、井口講師は語る。

では、扁平足になってしまったらどうしたらよいか。

アーチサポートのある靴を履いて矯正するのが、ひとつめの方法。また扁平足では踵の骨が外側に傾いているので,踵の内側にクサビ状の足底板をいれた治療用の靴を作ることもある。先天的な骨の癒合や、軽い脳性マヒなどの原因による患者には、アーチを彎曲させた状態をつくり、固定する手術をしなければならないケースもある。

「足に痛みを感じる人は自然と歩き方も悪くなって,その結果膝が痛くなったり腰が痛くなったり肩がこったりして、足以外の部位にも悪影響が出てきます。ただ扁平足の子は勉強ができないなどという俗説は、とんでもない誤解です。扁平足と知能程度は無関係です。また扁平足は遺伝する、という人もいます。これは親が肥満体なら、子も似たような体格になり、結果的に扁平足になってしまうという程度のもので遺伝ではありません」

それでも、自分は扁平足ではないかと、悩む人がいる。

「一定の目安としては、くるぶしの斜め下の一番出っ張っている部分の骨が他の人より低いか、また非常に出っ張っていて土踏まずがない場合。そのようなときには、一度健康診断をかねて専門医にご相談ください。」と井口講師は語る。