ハンマー趾(槌趾)
慶應義塾大学医学部整形外科 講師
井口 傑 (いのくち すぐる)
第2〜5趾には3の関節があり、その2番目の関節をPIP関節(近位趾節間関節)と呼びます。この関節が背側凸の「く」の字に曲がり伸びない状態をハンマー趾と言います。ファッショナブルな靴が好きな女性に多く、PIP関節の背側や趾先に胼胝や魚の目ができて痛くなります。サイズ合わない靴やヒールの高すぎる靴をはいて、PIP関節が曲がったままの状態を続けていると、趾を伸ばす腱が緩み、PIP関節の部分で脇に滑り落ちてPIP関節が伸展できなくなります。これが続くと関節が拘縮を起こし曲がったままになります。こうなると屈曲したPIP関節の背側と足底を向いた趾先部が靴に当たって胼胝や魚の目になり痛むわけです。靴の先が低い靴や尖った靴では当たりやすく痛みが強くなります。
先ずは合った靴を選びヒールの高すぎる靴をはかないという予防が第一です。でも自分でPIP関節を伸ばせるようなら間に合うので、正しいサイズの靴をはいて下さい。勤め帰りに(足が最も大きくなっている時刻)はいてみて、趾をしっかり伸ばした状態でかかとに小指が一本入るサイズを選びましょう。ヒールが高すぎたり、大きすぎたり、中敷が滑りやすくても、足が靴の中で前方に滑るので先につかえるばかりでなく、滑りを止めようとPIP関節を屈曲するので良くありません。PIP関節が伸びない人は、正しいサイズで先端の厚い靴をはき、胼胝のできた部分が当たらないようにドーナツ型のパッドが付いた絆創膏を貼って下さい。気長にPIP関節を手で伸ばす運動を続けることも必要です。
PIP関節の出っ張った部分を削るという手術はありません。PIP関節を曲げている屈筋腱を切離し、拘縮が強ければ関節嚢も切離します。変形が直れば胼胝や魚の目は自然に消えてしまいます。一本や二本ならば局所麻酔で外来手術で可能ですが、両足全部と言うことになれば入院も必要でしょう。正しい靴をはきパッドをあてても痛くて歩くのに差し支えるようなら手術も止む終えないでしょう。