こうして治す外反母趾(暮らしと健康 2001.10号)

 

 足の親指が外側に曲がって変形する病気

近年、外反母趾が女性に急増してきました。外反母趾は、足の親指が外側(小趾のほう)に曲がって変形する病気です。症状の進行程度によって、可逆期(代償期)、拘縮期(非代償期)、進行期(増悪期)、終末期の四つの時期に分けられます。

可逆期は、足の親指が外反していても筋肉や靱帯などの伸縮力によって、もとにもどる状態をいいます。靴を脱いで指に力を入れたり、手の指で内側に曲げてやれば足の親指は正常な位置にもどります。

しかし、母趾が靴などで外反を強制される生活が続くうちに関節の炎症などをおこし、関節包や靱帯などの周囲組織が弱まってかたくなり、拘縮してもとにもどらなくなってしまいます。この時期を拘縮期といいます。

進行期には、もはや立って歩くだけで、親指が曲がってしまいます。体重が親指にかかるため、外反母趾は自然に進行します。外反母趾が進行して終末期になると、親指が第二指や、ときには第三指の下にもぐり込み、親指のつけ根のMTP関節が脱臼して、これ以上曲がりようがなくなります。こうなると機能不全になり、親指を踏み返すことも困難となります。

  女性のほうが外反母趾になりやすい

外反母趾になりやすい人の特質がいくつかあります。

一つ目は、女性であることです。二つ目は、遺伝傾向があることです。足が平らで、親指が第二指より長いなどの、靴に影響を受けやすい足の形や骨格を持った人は要注意です。三つ目は、長時間立ち仕事をしている人、細い靴やハイヒールなどをよくはく生活の人などです。

女性であることや、遺伝形質的なことは変えようがありません。しかし、三つ目の生活スタイルや習慣を考慮し、改善することは可能です。とくに、毎日はく靴選びは重要です。

男性よりも女性に外反母趾が多いのは、女性の方が関節がやわらかく、筋力も弱いために、靴に押される力に影響を受けやすいのです。それに加えて、男性靴が機能性一辺倒なものが多いのに対し、女性用の靴は、ハイヒールをはじめとするファッション性を優先した細身のデザイン靴が多いことも大きい理由です。     

一生涯靴を履かない地域でも女性の外反母趾患者は、男性の三倍にのぼります。つまり、女性であるだけで外反母趾になりやすく、靴をはく欧米や日本での女性の発症率は、なんと男性の十倍にも達します。       

 外反母趾になりやすい素質というものはあるにせよ、女性がよくはくハイヒールやミュールが外反母趾を引きおこし、進行させてしまう大きな外的要因となっていることがわかります。 

 原因のほとんどは足に合わない靴にある。

 足に合わない靴をはいていると症状の悪循環の結果、靴がはけないほどの足の痛みや、見ためにもわかる変形を訴えて、かなり進行してから整形外科を受診する女性が少なくありません。

患者には大きく二つの年齢的ピークがあります。一つは社会に出て数年になる20歳代半ばから後半にかけての女性で、ハイヒールをはくと痛い、はきたいが曲がってきたという患者さんたちです。二つ目は、45歳〜50歳くらいの中年期の女性で、親指が曲がっているために、ふつうの靴をはいても痛いと訴えます。若い頃に曲がった親指が20年間、進行し続けていたというケースが非常に多いということを裏づけています。

痛みが軽くなったからといって油断すると、年をとってから変形がひどくなり、痛みも再発しやすいのです。かなり曲がってしまってからあわてて治療を始めても、外反母趾の進行を止めるのはむずかしく、手術して骨を切る以外に、変形を治す方法はありません。

早いうちならば、きつい靴をはくのをやめることで、痛みはやわらぎます。しかし、外反母趾がやっかいなのは、曲がれば曲がるほど曲がりやすくなるという悪循環に陥る点です。外反母趾で一生涯苦しまないためには、若いときから足と靴のことをよく知って、予防に務めることが大事です。

外反母趾を予防するには、5cm以内できれば3cmくらいのヒール高で、指が自由に動く幅広の靴をはくことが理想です。靴の先端が親指の方に寄っている形のスクウェア型が、よいでしょう。親指と小指のつけ根をとり巻く部分の幅と高さがぴったり合うものをで選んでください。せっかく幅広の靴を選んでも、この部分がきつすぎたりゆるすぎては予防にならないので気をつけましょう。

先細の靴やハイヒールをはかないことが重要です。どうしてもはきたい、はかざるを得ないという人は、靴の選び方とはき方に注意しましょう。足がなるべく前に滑らないもの、立ったときに指先にゆとりがあって指が動く靴を選びます。ヒールの高さは低いほど足が前に滑りにくいので、あまり高すぎず細すぎず、立ったときに重心がヒールのかかと部分に安定して落ちるものを心がけます。

ハイヒールは座っているときに指が自由に動いても、立つと窮屈になって動かなくなるものが多いものです。ハイヒールをはいたらあまり歩かずにすむよう、生活の工夫をしたいものです。たとえば欧米ではよく見かける光景ですが、スニーカーで通勤して、会社では指先が自由に動くパンプスをはき、アフターファイブの食事やパーティーでハイヒールをはく、というようにTPOに応じて靴をはき替えるようにしてはどうでしょう。

セルフチェックと受診する目安 

 外反母趾の治療は、症状の程度と年齢に応じて、必要な治療方法が選択されます。外反母趾かどうかは、親指の曲がった角度(外反母趾角)で決まります。外反母趾角は、第一中足骨と母趾基節骨がつくる角度です。病院では、荷重位という足に体重をかけた状態でエックス線写真を撮影して、計測します。

自分でチェックするときには、体重をかけて立った位置で紙の上に足を乗せ、足の内側のラインに線を引きます。親指のでっぱりの位置で交差する前側と後ろ側にできた二本の線の角度を分度器で測ることで親指のつけ根の曲がっている角度がわかります。これはエックス線ででる角度より大きめですが、角度が十五度以上なら、整形外科を受診してみましょう。

外反母趾角は5〜8度が正常で、15度以上が外反母趾です。20度までは軽症、20〜40度までは中等度、40度以上は重症の外反母趾と診断されます。

なお、外反母趾は成人女性の発症率が高いのですが、幼児や学齢期の外反母趾もまれに見られます。若年期の外反母趾は関節や筋肉などの遺伝的要因が大きいので、早めの予防が大切です。

症状の程度などで保存療法と手術療法が選択される

  外反母趾の治療は、保存療法と手術療法との二つに大別されます。症状の程度と年齢に応じて必要な治療方法が選択されます。保存療法は、初期治療として行うもので、靴以外にも、装具やくすりなどを使い、それ以上進行しないように気をつけます。

装具療法

装具療法は、痛みをやわらげるパッチなどのグッズ、足底板、矯正用の装具などを使うものです。市販されているフットケア用品のなかでも、タコやウオノメ用のドーナツ型クッションなどは、親指のつけ根のでっぱりに貼ることで痛みをやわらげます。外反母趾は足の縦、横のアーチがくずれやすく、扁平足や開張足の症状もおこりがちです。相互に原因と結果を招いて、外反母趾を悪化させるので、対症的な治療として靴底に入れてアーチをサポートする足底板を用います。いずれも、治療靴に入れて併用する際に、ゆとりを考えて使用しないと、かえって靴がきつくなったり、浅くて脱げやすくなったりして逆効果になるので、気をつけなければなりません。

矯正用の装具もいろいろあります。原理は外側に曲がった親指を引っ張ったり押したりしてもとの位置にもどそうとするものです。夜間装具は、可逆期にはかなりの矯正力を発揮するので拘縮予防には役立ちます。若年性の外反母趾や、若い女性で角度が二十度以下の人には効果が大きく、予防を期待できる治療法です。

歩行時に靴の中に入れる伸縮性ベルトやサポーターなども市販されていますが、靴の圧迫力や体重に抵抗するほどの矯正力は期待できません。家の中ではだしで生活する時間帯に使用したほうが効果的でしょう。親指の外反に対しては指の間にはさむガーゼや市販のセパレーターが簡単で効果が確実です。

これらの装具は関節の拘縮を予防し、治療する有効な手段ですが、過信することは禁物です。

  薬物療法

局所の炎症である外反母趾の薬物療法は塗りぐすりや湿布剤などの外用薬をもちいます。対症療法で痛みを抑えるだけで、外反母趾が治るわけではありません。昼は塗りぐすり、夜は貼りぐすりといったように生活に応じて使い分けます。

手術療法

手術療法を選択するケースと方法は、二とおりほどあります。一つは今のところ25度〜30度くらいで軽いが、放っておくと進行するであろう若い人に施すもの。シェブロン法といって、比較的軽度の外反母趾に用いられる手術法です。中足骨の末梢部の骨を一カ所切って外側にずらします。

もう一つは、変形が強くて35度〜40度くらいになり、保存療法を行っても痛み、どんな靴をはいても痛くて歩けなくなった中年期の女性に多いケースです。重度の外反母趾患者に行うマン法という手術で、中足骨の中枢部(根もと)で骨を切って曲げる方法です。末梢部も含めて2,3カ所切ることになります。いずれも、4,5日の入院が必要で、10日〜2週間で抜糸します。屋外では松葉杖を使います。手術では、骨を切るわけですから、骨折と同じように骨がつくまでに7週間〜3ヶ月かかりますが、ふたたび靴をはけるようになります。

相当ひどい変形でもほとんどは手術によって治ります。しかし、術後も正しい靴選びと予防を心がけなければ、足の痛みが再発しかねないので注意しましょう。