外反母趾のお話
最近、外反母趾という聞き慣れない病名が週刊誌やテレビに盛んに登場します。テレビの女性司会者が、自分の足の親指に物差しを当ててこんなに曲がっていますとパーホーマンスしてから、物差し持参の患者さんが増えたぐらいです。ダイエットフードとまではいかなくても外反母趾治療用装具の広告もよく見かけるようになりました。
外反母趾とは母趾が中足趾節関節(付け根の関節、以下MTP関節)で外側(小趾側)に「く」の字に曲がる病気です。余りひどくなると母趾が内側に捻れて第二趾を外側に押し除けたり、第二趾の下に潜り込んで押し上げ第二趾のMTP関節を脱臼させます。変形以外に、「く」の字の角の部分、母趾のMTP関節内側部が赤く腫れ、靴を履くと当たって痛みます。足の裏の第二、第三趾の付け根にも胼胝ができて痛むことがあります。
外反母趾は戦前の日本には極希の物とされていました。鼻緒のある下駄や草履が外反母趾の発生を防止していたようです。戦後、大多数の人々が何時も靴を履くようになり、特にハイヒールがファッションとして流行してくると、外反母趾の数も急増してきました。現在では特に珍しくはなくなり、一般の人にもポピュラーな病気になりました。女性には男性に比べ十倍以上多く、ハイヒールを始めとした靴の障害の関与が強く関与しているようです。しかし、一生涯、靴を履かない様な地域でも欧米の十分の一程度の発生頻度で外反母趾が見られることから、先天的な病因もあるようです。従って、一定の外反母趾になりやすい素因を持った女性が、ハイヒールなどの靴の障害により外反母趾になると考えられます。
早い人では高校生ぐらいから始まりますが、一般には高校や大学を卒業して社会人となり、ハイヒールをはき始めて数年した人が多いようです。最初は母趾の付け根の内側が赤く腫れ靴に当たって痛みを感じます。この時、多くの人が自分の母趾が外側に曲がっているのに気づき、心配になります。物差しを足の内側に当てて母趾の曲がりを見ると
100%の人が5〜10度以上も外側に反っているのでビックリし、外反母趾の写真を思い出して、あわてて整形外科に飛び込む人もでてきます。中には恥ずかしくて(?)人知れず悩んでいる娘さんもいます。
でも物差しを当てて真っ直ぐな母趾を想像してみると、母趾と第二趾が開いたゴリラの様な足になります。実は人間の足は元来、
5〜10度外側に反っているのが当たり前なのです。ですから、この時期に靴による障害を取り除いてやれば外反母趾の大半は防止できるわけです。もちろん足の筋肉を鍛えたり曲がりを矯正する体操は特に若い人には有効ですが、痛い靴を履きながらでは効果がありません。盛んに広告されている外反母趾の治療用装具も靴による障害を克服できるものはありません。一度、外反母趾になってしまうと装具をしても靴を変えても徐々に悪化し手術以外に治療法が無くなるので、この時期に良い靴を選ぶことが外反母趾の防止に最も大切です。良い靴を選ぶ方法は次の機会に譲るとして、外反母趾が心配な方は痛い靴を履くのは止めましょう。