外反母趾
足の親指つけ根が出っ張りそれが小指にも及び足が変形する。
手術は足を専門とし靴にも詳しい整形外科医を探すのが賢明
A子さん(33歳)は大学時代から左足親指(母趾)が小指側に曲がりそのつけ根が横に出っ張ってきたが、最近は小指も親指側に曲がって(内反小趾)、指と足底にタコもできた。靴を脱いだ後でも出っ張りの部分がズキズキ痛み、翌朝まで痛みやしびれ感が残ることも−−
慶応義塾大学病院整形外科の井口傑講師は説く。
「外反母趾の典型的な症状です。私たちの体重は、踵と親指と小指のつけ根(中足骨)の三点で支えられている一方、足の内・外側の縦方向と、横方向の三つのアーチが形作るドームによって体重や歩行による荷重をうまく分散させているのです。外反母趾は筋力の低下などで横のアーチが崩れたところに、両側から圧迫されたことで起ります.。逃げ場のなくなった親指のつけ根の関節で外反し中足骨が内反、母趾に連なる骨全体が”く”の字型に歪んだ状態です。ハイヒールの病気といわれますが、足に合わない靴でも同じことです」
ちなみにA子さんの足は25センチ。甲高・幅広で、左が少し大きいという条件が重なり、履きやすい靴など望めず、サイズと色が合えばよしとした。その外反母趾角45度、その内反小趾角は20度になっている。
それにしても足の痛みが頭痛や肩凝りにまで響くのはなぜか。まず出っ張った部分が痛んだり赤くなるのは、中足骨関節部の滑液包(皮膚を滑らかに動かす潤滑液が入った袋)が靴で圧迫されて炎症を起こすためだ。
A子さんのように窮屈な靴を履いていると、圧迫された足は痛まないようにして重心をとるために、足底の一部は靴から離れ、おのずと不自然な姿勢をとることになる。そういう姿勢で歩いていれば、どうしても膝や腰にも負担がかかって、二次的に肩凝りや緊張性の頭痛などが起きても不思議はない。外反母趾があるため、間接的に不定愁訴が起きるのはこういう訳なのだ。
手術の結果には95%が満足
A子さんは手術を決意し近々足の外科を受信する予定だ。
「手術の目的は変形の改善と痛みの除去ですが、その必要性とタイミングの判断は、学会の診断基準を基本に自覚症状や年齢や生活状況等を勘案し、患者さんの希望を尊重して決めます」
矯正用具は予防の意味は大きいが、いったん足が変形するとこの治療法では殆ど戻せない。
「今までの外反母趾の手術は術後2ヶ月は松葉杖を必要とし対象は重症者でした。ところが最近は、外来でできる日帰り手術も開発され、軽度でも将来の変形を防ぐため、早い手術を希望する方が増えています」
外来手術は、局所麻酔下で中足骨の外側を数センチ切開し、一カ所で骨を矯正するもので、所要時間は一時間。松葉杖で帰宅できる。中足骨の骨を切って形を整える骨切り術は1〜2週間の入院となる。回復まで時間の余裕があって介助者がいる場合は両足を同時期に行うことも可能だが、通常は一方ずつ行い、片足ケンケンができるようになるのを待ち、なおかつ満足度が高い場合にもう一方を行う。他にも変形に応じて様々な手術方式が選択されるが、主流はこの二つだ。
慶應病院では手術件数は年間百を超え、足の手術では最多。術後に歩行などに影響する後遺症もなく、人によっては諦めていた運動を再開していることも。
「患者さんは手術に過剰な期待を抱きがちで、5%が”この程度の改善では手術したかいがない”といった不満を訴えます。骨や関節など運動器は一度悪くなると手術で完全に元通りにはできません。この点を理解の上、手術を選択したいものです」
井口講師は整形外科の中でも「足の外科」が専門で、足の運動や病気は勿論、靴にも造詣が深い。今夏のミュールの踵の揺れの観察を通じて、靴がらみの足のトラブルがますます増えると予測している。現に女性患者の多くは足にも靴にも無頓着で、更に靴は履けば痛いものと錯覚していることに驚くという。
「この種の病気は予防が第一。10人に一人は左右の足がワンサイズ違うのですから、靴選びは夕方足が最も大きい状態で両足に履き、歩いてみてから。また1日に一度は足を丁寧に洗い、裏まで点検することを勧めます」